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怠惰の箱庭2nd

怠惰の箱庭2nd

第4章 発見

俺が卓たちと仲間になって三日が経った。その三日間で俺は人間抹殺を趣旨とした組織、‘ヴェトリアス’、それに対抗するために生まれた人間や能力者を守るための組織、‘ゲイヴ’の存在を聞かされた。他にも、ヴェトリアスが2000年前に暴走して消滅したと言われている‘アマツビト’の復活をさせて人間の一掃をしようとしている事や能力には発現をしてから大抵の場合破壊衝動が生まれる事などを教えられた。

「よう、考え事か?」

今まで教えられた事を反芻<はんすう>していたら邪魔が入ってきた。

「何だよ剣。暇なのか?」

隣にやってきた剣に言う。

「ああ。何しろ勇はいねえし、お前はボケッとしてるし、暇で死にそうだ」

剣がやれやれといった様子でぼやく。

「平和なんだからいいじゃないか。お前はこういう時に平和を噛締めておこう
とは思わないのか、まったく」

最近つくづく感じている事を剣にぶつける。

「確かに平和なのは良い事だけどよ、平和なのと変化がねえのは違うと思う
ぜ。変化がないまま生きてたって活きてる感じがしねえじゃねえか」

と真面目そうな事を言う剣。

「でさ、変化を求めて最近夜の街を軽く走ってるんだけど」

「は?なんで?最近失踪事件が相次いでいて物騒なのに」

失踪は恐らく草麻の仕業だろうと倉見が言っていた。だから尚更危ないのだ。
心配している俺の言葉を無視して剣が続ける。

「なんかうめき声みたいなのが森から聞こえてくんだけど、見に行ったらそこにはでっけえ土人形みたいなのが置いてあるんだわ。それで日ごとに量が増えてたりポーズが変わってたりするわけ。これってどう思う?樹」

そこまで言ってから、目を閉じて考え込み始めた剣。しかし俺はそれを遮るように、

「待て。お前は何故夜出歩いているんだ?」

と質問する。

「んなことさっき言ったろ。変化を求めてんだよ。特に最近は失踪だなんだと騒いでいるからな、変化がありそうじゃんか」

要するにコイツは面白ければどうだっていいのだろうか。だとすれば大変危険だ。

「お前は本当にその土人形とやらを見たのか?記憶は確かか?」

苛立ちを話題を変えることで抑える。

「ああ。99%間違いなく、だ」

剣が自信満々の顔で答える。そこで、頭の中に最悪のケースが浮かび上がってきた。

「もしアイツが森に潜伏していたら・・・・」

「アイツって誰だ?森に潜伏ってどういうことだ?」

うっかり漏れ出た考えを聞き逃さず剣が厳しい顔で訊いてくる。

「い、いや、なんでもない。本当になんでもないんだ。ただの独り言だから」

と言いつつ急いで身支度をする。この事を二人と話し合わなければならない。

「んじゃ俺用事あるからもう帰る。また明日な」

言いながら走る。早く二人に話して森を見に行かないと。犠牲者が増える前に――。



「―――という訳なんだが、どうする?」

剣から聞いたことを二人に話す。すると、

「信憑性はあるのか?」

「行ってみる必要がありそうだな」

保守派の倉見と行動派の卓で全く違う意見が出た。

「卓、谷田の言っている瀬多の証言の中にある土人形がそのまま草麻につながるとは思えない。ここはもう少し様子を見るべきだと思う」

との倉見の意見に対し、

「いや、潜伏場所には森が最適だ。それにもし草麻でなくても何か居る可能性が高い。最近森が騒がしいからな。それに完全な作り話だとしても、そうしたら都合よくそんな話を持ち出してきた剣とやらを疑えばいい」

卓は簡単に切り返す。

「剣はそういう嘘は吐かないぞ」

俺のささやかな反論には、

「別の能力者が操っているのかもしれない。それにお前の知らない一面だって持っているかもしれないしな、それは当てにならない」

と倉見に一蹴された。

「ともかく行ってみよう。本当に居るかもしれないから、それ相応の準備はしておいた方が良いだろう」

卓がまとめた。卓と倉見二人は、部屋の隅に置いてあったアタッシュケースを持ってきた。卓がその中から何かを取り出した。

「何だ、それ・・・・」

卓が手に持っていたのは薬瓶で、

「これの中身は麻酔薬だ。これを使って草麻を動けなくする。その隙に捕獲、もしくは始末する」

無表情で卓が答えた。倉見は何かよく分からない紋章が刻まれたグローブをはめている。手首の所に金属製のリングがついている。

「倉見、何でグローブなんか着けるんだ?」

「これは能力のリミッター、増幅器として使うものだ。お前もそのうち配給されるだろう。それがどんな形かは分からないが」

「秋はすぐ周りを破壊しようとするからな。だから力加減が必要なんだ」

倉見の生真面目な答えの後に、卓が笑いながら言った。

「周りを破壊するって・・・・」

卓は笑っているが、間違いなく笑い事ではない。気分を変えようとして、

「なら卓にもあるんだろう?倉見の持っているような物が」

と質問する。

「俺のはブレスレットだ。いつも着けてるだろう?これが無いと常時翼が出てしまう」

前から少しカッコいいと思っていたブレスレットを見せながら卓が答えた。

「樹、お前も何かポケットに入るくらいで刃に変えても使える物をいくつか携帯しとけ。森で常に材料が手に入るとは限らないからな」

そう付け足して卓は準備を終わらせた。俺はボールペンや消しゴムなど比較的コンパクトな物を数個ポケットに詰め込んだ。

「よし、全員準備も終わったみたいだし森に行くとするか」

卓が俺達二人に声をかけた時、時計は11時を示していた。俺達は卓の家を出て森へと向かった。/続



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